甘熟甘懐。

クリスマス2009

お祭り好きのローグギルドは、クリスマスにも気合が入っている。

「これそっちお願い。あ、ケイはこっちの飾りね! 高いところは危ないからでかいのに任せりゃーいいのよ。」
「危ないって…。」

一応これでも成人間近の男子なんですけど! 素早さ鍛えてるからどんくさくもないよ!?
グラマラスなおねーさまに心配してもらえるのは嬉しいですが、なんかこう複雑。

というわけでこのローグギルド寮も例に漏れず、クリスマスパーチーなんぞに向けて準備が着々と進んでいるわけです。
年末にもろかぶりで、皆さん忙しいでしょうに、うきうき楽しそうに手分けして。
俺は別に仕事をもらってないから、常に暇人。でも黙っていたら何もさせてもらえそうにないから、自ら進んでお手伝いだ。
いい子だ、俺。
今は女ローグさんしかいなくて、男手は俺一人。だからちょっといいとこ見せようかなーなんて思っていたのに、さっきの台詞にあったように高いところはダメ! なんてかーちゃんみたいに注意された。
しぶしぶ下の方の飾りつけを続行する。
俺、男の子なのに!

「あぁそうだケイきゅん。」
「?」

脚立にのぼって、俺には触らせてくれない位置の飾りつけをしていたローグさんが下りてくる。
それを目で追っていたら、とんと地面に足が届いたところで抱きつかれた。
おおおおお! や、やーらかい!
ってだめだめだめだめ! 嬉しいけど鼻血でますって!
離れてくださいー俺免疫ないんですってえええばああああ。

あわあわ顔を赤くしていたら、少しだけ体を離して…でも下半身は密着したままで、触れそうなほど近くで赤い唇が妖艶に笑う。
ほんと、俺が獣だったら襲われてますぜ、姉さん。
紳士でよかったね!
どきどきしてるの、バレなきゃいいなーと、視線を床へ逃がす。
見てたら本気で粘膜という粘膜から血が噴き出しそうなんですってば。
ほんといい乳。ってだめだって! 考えちゃだめえええ。

「あのね、寮でするパーティーは二十五日ってのは言ったわよね。」
「あ、はい。」

やんわり押し返してもだめだ。クスクス笑ってさらに腰を抱き寄せられる。
このリアクションがいけないんだろうと思うけど。でも余裕がなくて焦ることしかできない。
あーうー。

「二十四日にできない理由ってのがね、ローグ祭りがあるからなの。」

あ、それ聞いたことある。
一ヶ月に一回決められた日に集まって、ローグだけで狩り場探検とかPv戦とかを楽しむお祭りだ。
偶にプリさんとかが交じることもあるらしいけど、基本的にはローグのみ参加可能。
もちろんハンターである俺は行ったことないけど。
噂だけは聞きますよ。職限定祭りはどこでも行われているようだけど、一番盛んで楽しそうだって。
いいなーハンターにもあればいいのに。そしたらステータスとか狩り場とか、いろいろ先輩方に聞けるチャンスなのにー。
あ、あるけど俺が知らないだけってことも考えられるな。今度調べてみようかなぁ。

「我らの可愛いケイきゅんも連れて行きたいところなんだけどね。」
「さすがにそれはムリだから…。ごめんね。仕事を休める人は皆そっち参加することになっててー。」
「二十四日は一人ぼっちにさせちゃうんだけど。」
「あぁ心配! こんな広い寮にケイを一人ぼっちにさせるなんて。」
「交代で戻ってくる?」
「いいわね! あ、そもそもアイツくるのかしら。アイツなら残るって言いかねないわねぇ。」
「アイツって…コウのこと? 仕事じゃなかったかしら。」
「あら、なおのこと心配だわー。やっぱり交代で…。」

代わる代わる抱きしめられ頭をなでられ。軽くパニックです。
ええい一体皆さんいつ帰ってきたんすか! さっきまで三人しか部屋にいなかったのに!
っというか完全になめられてますよね。面白がってますよねこれ。
え。気づくの遅すぎ?
でっすよねー…。

「ちょっ…待…一人で大丈夫だから!」
「えええ。」
「ガキ扱いすんな! ってゆうかいないなら臨時でも行くし!」

クリスマスを一緒に過ごすような相手も他にいない。
そういう人らは臨時に顔出してるだろうから、そっち行けばいいわけだし。
別にないならないで引きこもって矢作ってればいいんだ。
何も変わらない日常。
ただ、街がまわりが、少し浮かれているだけ…。

「とりあえず散りましょうか。気安く触らないでもらえます?」
「ぎゃああ! メガネモードコウ様ごきかあん!」
「皆配置に戻れー!」

なんだかちょっぴり寂しげにうつむいていると、聞き慣れた声が降ってきて、たかっていたローグさんたちが飛散した。
何事かと思っている間に担ぎ上げられ、ソファまで運ばれて膝に乗せられる。
かすかな血の匂いと砂埃の匂い。それから汗と…安心する体臭。
思わず確かめるように擦り寄ったら、背中をぽんぽんとあやすようになでてくれた。

「ただいま帰りました。いい子にしてましたか。」

メガネを片手で器用にはずせば、もういつも通りのコウさんだ。
これは最初会ったときに感じた通り、印象をやわらげるための小道具だそうで。
すなわちこれをかけているときは、お偉いさんからの命で、誰かしらに愛想を振りまいてきた後で、イコール機嫌が悪いサイン。
他のローグさんたちは声を揃えて「こわい!」なんて後退りするけれど。あと疲れて帰ってきたコウさんにも申し訳ないけれど。
俺はメガネモードのコウさんが一番好きだったりする。

だって、なんか。
いつもより優しいんだ。
いつも優しいけどね。
それの五割増しくらいなんです。

「機嫌が戻ったところで、聞いてもいいかしら。」
「なんです?」

肩口に懐いていたら、散り散りになっていたローグさんたちが戻ってくる。
背中をなでてくれる大きな手の感触を楽しみながら何事かと耳を傾ける。
皆手を休める気はないのか、ツリー飾りを弄くりながら俺らを囲むようにソファの周りに集まり始めた。

「イヴの祭りのことよ。今年運悪くかぶっちゃって来ない人多そうだけど。」
「あんた別の仕事なきゃ、毎年かりだされてるじゃない。今年はどうなの?」

質問は終わった、さぁ答えなさいと言わんばかりに視線が集まる。
まぁどうせ仕事か祭りに出るかになるだろうけれど、俺も一応見上げて答えを待つ。
コウさんはきょとんと目を丸めて聞いていて、そのまま瞬きを始めた。
いつもだったらぽんぽんテンポよく返事をするのに。珍しい。

「行くわけないでしょう。街と言わず狩り場でもどこでもカップルがいちゃついてるイヴに仕事なんてしてられません。」
「いやそう言うとは思ったけど。上に怒られるでしょう?」
「勝手にサボったりしませんよ。何が何でも休み取りますから大丈夫です。と言いますか、取らないと僕の身がもちません。」

コウさん忙しいもんなぁ。
教会がクリスマスシーズンに忙しくなるのは有名で俺だって知っていたけど。
まさかローグギルドまでバタバタしだすとは思ってもみなかった。
連日朝帰り、もしくは昼帰りでは本当に身が持たないのだろう。
イヴくらいは…ちゃんと休んでほしいな。
世間では恋人同士、甘い夜を…なんて謳っている怪しげな露店まであったりする日だけれど。
そんなわがまま言ってられない。
…正直、ちょっと構ってくれる時間、ないかなーって、淡い期待はしてましたけどね!
言えない言わない。
わざわざ忙しい時期じゃなくても、落ちついてからでもいいわけだし。

背中の手が頬のあたりに移動してきて、親指の腹でゆっくりなでられる。
くすぐったくて首を竦めたら、顎を持ち上げられて上を向かされた。
至近距離で微笑まれると、結構くる。
リビングなのに、皆がいるのに…キスをねだりたくなる。

「人も露店も多い首都でペットトンドルとかしてみなさい。誰も見ていないところで黙ってペットをしまって、それ系の露店でそれ系の買い物して、気づかれないうちにドロンしますよ。もちろんこの間無意識で。」
「威張るところじゃない…。」

なぜか得意げになっているコウさんにすかさず突っ込みが入る。
ところでそれ系って何を指しているんですか。

「仕方ないわねぇ。あたしが幹事役引き受けるわ。ダーリン遠征中で寂しいし。こっちはこっちでぱーっと盛り上がっちゃいましょー。」
「おーけー私も付き合うわ。可愛いケイきゅんのためだもの。」
「あと、コウのご機嫌取りのためでもあるわ。」
「ありがとうございます。本当に理解のある同僚たちで嬉しいです。」
「露店、あとでどこがよかったか教えてね。」
「もちろんです。いろいろ試してみるつもりですしねー。」

ぞろぞろと持ち場に戻るローグさんたちをぽかんと見送る。
内容が理解できないまま話が終わってしまった。っていうか今ので結論が出たの? 何か決まったの?
置いてけぼりにされてるのは気のせいですか。確かに知力はあんまりあげてねえけど! これでも勘は鋭い方なんだぜ…?
一応あれなの? コウさんがーイヴに寮にいてくれるって…そういうことでOK?
ぐるぐる考えてようやっと理解したころには、ご機嫌なコウさんに担ぎ上げられ、飾り付けを再開したローグさんたちに手を振られていた。
チビとは言えど、それなりに体重のある俺を軽々運んで行き着くのは…たぶん自室。

「大丈夫ですよ。今日はいつも通り。試すのはイヴに取っておきましょうね。」

あ、そういやさっき試すって言って…。
……だから何を!?


温かい手が背中をまさぐって、その度にしびれるみたいに全身が反応する。
進入してくる舌にからめとられて、うまく唾液が飲み込めない。
気持ちいい。もうこのまま流されてしまいたい。
でもだめ…!

「ここ、リビング!」
「誰も見てませんよ。」

いやそりゃそうなんだけどね!
皆さんローグ祭りの真っ最中で、本当に冗談抜きでこの広い寮が空っぽなわけなんですけどね?
だからってこんな共用スペースで盛ってんじゃねえぞごるぁ。
なおしつこくからんでくる腕を押えて、どこにでも跡をつけようとする口許を押し返す。
いつもならここで機嫌が悪くなって、命令口調になって強引さが増すんだけど、今日はニコニコ嬉しそう。
俺のこの反応も楽しんでいるんだろう。大きな手もゆるゆる動くだけで、本格的なそれにはまだなっていない。

パーティー本番は明日なもので、二人分のいつもの夕食をとって一段落。
まさか本当に休みを取ってくれてるなんて思わなくて、嬉しくて抱きついた俺が悪いのかもしれないけど。
そういうあらぬところが反応しちゃう行為はせめて部屋で…! あと欲を言えば風呂に入ってから!
さっきからそう訴えてはみるものの、頭上に音符マークでも飛ばしていそうなコウさんはソファに陣取ったまま動こうとしない。

「せっかく誰もいなくて広い部屋で二人っきりなんですから、もうちょっと大胆になってくれてもいいんですよ?」

だから!
広い部屋だから逆に緊張するんだってーの!!
部屋より確実に明るいし、外の人の気配も微妙に感じるし…。
何より誰か気まぐれに帰ってくるんじゃないかと気が気じゃない。
そもそもなんでここなんですか。テーブルには誰かが置いて行った雑誌とか、床には武器とか防具とか転がっていて、生活感漂ってるんですよ!
今の今までローグさんたちが普通にいて、普通に会話して食事までしていた場所。
そんなとこでおっぱじめようってのか? 正気ですか!?

「んぅ…!」

隙をつかれてまた口を塞がれた。
さっきよりだいぶ乱暴で、舌をひっこぬかれるんじゃないかってくらいに吸いつかれなめられる。
必死で抵抗したところで腕力では勝てないのだけれど、だからってこのままじゃ本気でヤられる!

「ぷは。」
「いい加減力を抜きなさい。しっかり反応してるのだから…素直になりなさい。」

かっぷり耳に歯を立てられ、ぬるぬると唾液をまぶされる。
はぁっとわざとらしく息まで吹きかけられ、低い声でそう囁かれた。
ってーどこ触ってやがる!
服の上からでも容易にわかるかたちが、さらにコウさんの手によって顕著になる。
元より我慢強くできていない。他でもないコウさんの手で開発されたものだから、余計に反応してしまう。
ぎりぎり食いしばった歯の間から、うっかり声まで漏れそうだ。

「こ、こじゃ嫌だって。」
「じゃあ風呂にします?」

なんでそう共用スペースでやりたがるかな!
俺に露出する趣味はねえ。やるなら一人でやれってんだばかやろー!
もう感じているのか、嫌でしょうがないのか、涙まであふれてくる。いやもともと泣き虫なんですけどね。

…ほんと、性なる夜とはよく言ったもので。

あぁもう本気で嫌だ。
なんでそんなわざわざ恥さらしみたいなことさせられなきゃ、いけないんだ。

だんだん腹立ってきた。抵抗するのも馬鹿らしくなって、されるがままになる。
力が抜けてきたのをいいことに、コウさんがご機嫌でさらに露骨にまさぐり始めた。
好きなのに、大好きなのに。
コウさんの中では、俺の意思なんてどうでもいいのか。
ヤりたいときにヤりたいところでヤれたら、それでいいのか…。

「もういい。」
「…ケイ?」
「もうたくさんだ…。」
「ここで泣かれると僕が悪者みたいじゃないですか…。」

悪者じゃなかったらなんだってんだ!
俺はアンタのおもちゃじゃない人形でもない!!
こっちの都合なんかおかまいなし。抱きしめてあやすようにキスすれば、すべて許されると思ってる。
冗談じゃねえ。誰が流されてやるものか。
涙を止めようというのか、大きな手がポンポンリズムをきざんで、こめかみに瞼に唇が降ってくる。
それさえも嫌で、力いっぱい胸を突き飛ばし、勢いよく立ちあがり距離を取った。
涙で目の前が、よく見えない。

「! ケイ!」

ようやっと事の重大さがわかったのか。

「もう俺に触るな! 俺はおもちゃでも見世物でもねえ! そんなに見せびらかしてヤりたいなら…。」

コウさんは大きく目を見開いて、信じられないと言わんばかりの表情になった。
まさか俺に怒鳴られる日がくるなんて、思いもしなかったんだろう。

でもそれ以上は言葉にならなかった。
のどにつっかえて、やっとしぼりだしても嗚咽ばかり。
床にシミを作っているのが自分でもわかるくらい、大粒の物が瞼からこぼれおちる。
焦ったふうにソファから立ちあがったコウさんの足音が近づいてくる。
泣いた所為か、全身がだるくて。
正面から抱きしめられるのに拒否できなかった。
頭頂部に頬ずりを受けながら、性懲りもなくコウさんの返事に期待している俺がいる。

「すいません。調子に乗りすぎました。」

そう言われ、頭をなでられ、腰を抱き寄せられ、額に頬に口づけられたら、我慢がきかなくなった。
俺だって本気で離れたいわけじゃない。できることならずっと傍にいたいし、ずっと触れていたい。
望まれるのなら何度でも抱かれるし、キスだって。
でもそんなの、人に見せるもんじゃないだろ?
二人でゆっくり、育むものじゃないか。
俺は二人だけのものにしたい。二人だけの秘密にしておきたい。

背中に腕をまわして、上着をぎゅっと握り込んだ。
胸元に擦り寄って、涙をファーにムリヤリ吸い込ませる。
こわばっていたコウさんの体から、ほっと溜息がこぼれた。
ぎゅうっと抱きしめられ、低い声で名前を呼ばれる。

「部屋へ、行きましょう。僕だって可愛いケイの姿を、誰にも見せたくありませんから。」

上を向かされ、頭を固定されて。
熱い口づけを受ける。
でも今度は激しいだけじゃなくて、優しくて甘いキス。

しばらく見つめあってから、体を離して。どちらからともなく、寝室への階段を上り始める。
すぐ隣を歩いているのに寂しい。でもまた抱きついたりなんかしたら、煽ることにしかならないし…。
あぁ、やっぱりこうなったのは俺の所為…だよなぁ。
自分のこと棚に上げて、怒鳴ってる場合じゃあねえよな。
うー。申し訳ないことをした…。

「ところで“触るな”って、さっき言いましたよね?」

反省。と少し落ち込んでいたら、楽しそうな嬉しそうな。いや、違うな。何か企んでいそうな、が一番近いか。そんな声が降ってきた。
釣られて立ち止まり、思わずそちらへ顔をあげると。

にっこりいつもの調子に戻ったコウさんの手には。
しっかりコルクの栓がはまった、小さな赤いビンが握られてい…て?

「…へ?」

ドアの閉まる音が、やけに大きく耳に響いた。


翌日。昼前に顔面蒼白でコウさんはばたばた出かけて行った。
どうやら休暇申請が一つ手前までしか受理されていなかったようで。
朝帰りで入れ違いになったローグさんたちの話では、これからみっちりお説教されるのだそう。

「ざまぁみさらせ。」

クリスマス本番は、コウさん抜きでめーいっぱい楽しませていただきますよ。

腰がひっじょーに重たいのが、なんだかとっても癪ですがね!



―終―


あとがき。

ここまでのお付き合い、ありがとうございます。
なんとかクリスマスに間に合った! と言うわけで季節物で「カード」続編書きました。
楽しんでいただけましたでしょうか。

“触るな”のくだりがよくわかりませんかね…?
そんな方は「カード。page7」最後の方をご覧くださいまし。
それでもわからなかったら。うん。ごめん。(何

ところでエロいシーンも好きなんですが、書ける人を尊敬します。
だってこんなくらいのぬるい「いちゃいちゃ」だって恥ずかしいのに…さらに上なんてとても書けない…!

 
高菱まひる
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