甘熟甘懐。

犬と鴉(1/10)

例えば、少し道を間違えるとか
待ち合わせの時間に遅れるとか
そんな些細な出来事があったとし様。

だが、この状況は如何考えても
些細じゃあねぇよなぁ。

何が如何言う状況かっつーとだ。

俺より多少若い兄ちゃんが
下着一枚の格好で
この俺の部屋に居る事だ…。

仕事柄、基本俺は自分の部屋に
人を招き入れる事はしない。

それなのにだ。
何で俺は他人を部屋に上げてるんだ?

何より、脱ぎ捨てられた鎧を見る限り
コイツは一番関ったらマズイ相手だ…。
起きる前に、ドコかに放り捨てるか?
いや、いっその事存在を消すか?

俺が思案していると
寝てた筈の、兄ちゃんが目を覚まし起き上がった。

「お、おはよう御座います。昨日は如何も済みませんでした」

俺の顔を見るなり、いきなり深々と頭を下げる兄ちゃん。
何つーか。随分と礼儀正しい青年つーか。
清々しい反応つーか。

っていや待て、そうじゃねぇだろ。
先ずは状況確認が先だろ。

「あー。その。何だ。俺もイマイチ状況が掴めねーんだが。
もし良ければ、状況説明してくれねーか?」

俺はなるべく、相手を脅かさ無い様に聞いた。

「あ、はい。えっと…」

この兄ちゃんの話を漸くすると、こう言う流れだ。

先ず俺が、酒場で酒を楽しそうに飲んでいたそうだ。
でもって、この兄ちゃんはたまたま近くの席で
ボーッと飲んでいたらしい。
ソレを俺が発見すると、この兄ちゃんに絡んだそうだ。
俗に言う絡み酒だな。
で、俺が酒は楽しく飲むもんだ。とこの兄ちゃんに力説したらしい。
そして、力説した後。眠り込んだそうな。

俺としてはそのまま放り捨てて欲しかったんだが。
流石に、この兄ちゃんは職業柄そうも出来ず困って居た所
酒場のマスターが、俺が今使っている宿の部屋を教えたらしい。

ココまでは納得した。
だが、何で下着一枚で寝てたのか聞くと。
俺は自分で自分を殺したくなった。

如何も俺が、兄ちゃんが着ていた鎧を見て
そんな鬱陶しい鎧何て脱いで、下着一枚になっちまえ。
と脱がしたそうだ。

「えーっと。まぁ、大体こんな所です」
兄ちゃんは、申し訳無さそうにしつつ
全部包み隠さず話してくれた。

「そうかい…」
俺はもう、苦笑するしかなかった…。


コレが、俺とこの兄ちゃんとの出会い話
この後、俺とこの兄ちゃんとの間には
色々な出来事が起こるのだが。
ソレはまた、別の機会に。な。

↑Page Top
inserted by FC2 system