甘熟甘懐。

レモネード

「角に陣取ってるむちむちブラックスミスいるだろ。あの女の好み聞いてきて。」
「開口一番それか。そして物を頼む態度かそれが。」

こちとら昨日出たプチレアをおまえが起きてくる前に捌いちまおうと早朝露店開きに来たってーのに朝から元気にナンパ日和ですかそうですか。
別にそれくらい結構ですけどね。そこにおまえが座り込んでるとちょうちょう邪魔なの。
おまえ過剰しまくって今すっからかんなんだろ。これ売れなかったらまずいだろ。じゃあ今は商売に精を出してる俺に感謝すべき瞬間なのであって、命令口調でナンパを強要していい場合ではない、そうだろ?

「つか自分で聞きゃいいだろ。俺の知らん間にころころ相手変えてんだし、おまえなら誰だって落とせんだろ。」

深くは知らないっつか知りたくもないけど。
典型的な所謂ワイルド系美形な相方様は、毎日昨日とは違う女を連れ、夜の街へ繰り出しては朝帰りを続けている。
その間俺とも一応狩りに出て、一緒に飯食ったり飲みに行ったりもしているわけだから、実はこいつ首の後ろにAとかBとかラベル付けされてんじゃないかとたまに思う。絶対一人以上この世に存在してるだろおまえ。ちなみに今日はどれだよ。Bか? Cか?

「ばっかああいう真面目そうなのは恥じらいがいいんだ。真っ向勝負じゃ不審に見られんだろ。急がば回れってやつだ。」
「俺ここによく露店出してっから、その俺に会いに来てるおまえのことも彼女、知ってると思うぞ。」
「なんだ俺に惚れてるのか。」
「おまえ無駄にポジティブだよな。」

なんで知ってるイコール惚れてるになるのか、自分の容姿に自信が微塵もない俺にはさっぱり理解できません。
おまえの女癖の悪さまで勘付かれてんじゃないかって忠告のつもりだったんですけどね。
それでも振り向かせる自信があるなら口説いてこいよ。真っ向勝負でも勝てるだろそれなら。

「もし仮に俺が彼女に好みのタイプを聞きに行ったとしよう。」
「仮じゃねえぞ、聞いてこい。」

よし、さらっと無視。

「それで俺と彼女がいい仲になって付き合い始めちゃったらどうすんのレモン様。」
「…ぷっ。」

ああうんそういう反応が返ってくると思いましたよー。俺だって慣れたもんだよ。怒りすら湧いてこねーよもう。
ほんともうどーでもいいわ。俺なんでこんな俺様プリースト様の相方やってんのかしら。
んでもってなんでこんな自分勝手な男に…。

本気と書いてマジ惚れしてんのかしら。
やだわぁ全く。

「わかった。借り一つにしてやる。だから聞いてこい。」
「何レモンさん今回本気なの。」
「ばっか俺は毎回本気だ。」

本気の恋愛が三日しかもたない点に疑問を感じたことないのかこの男は。
こちとらノービスだったころからおまえ一筋だよ。美しきかな初恋だよばかやろう。

「へいへい。じゃあいっこ言うこと聞いてもらうからな。」
「あ、酒奢るとかナシな。」

わーってるよ。おまえ今財布の中身364zだもんな。


俺にしては本当にさりげなく隣に腰かけたと思う。
最初はいいお天気ですねから始めて、ここでよく露店してますよねとか、相場の話とか同じ職業であるがこそのツーカーな会話を楽しんで。
俺実は女口説く才能あるんじゃね? と勘違いしちゃうくらい上手く聞きだすことができた。
最初声かけた時は胡散臭そうな視線を投げられたわけだが、今じゃすっかりお友だちだ。俺ゲイやめたらモテるんじゃないかな。そう簡単にやめられないけど。

――実はその、レモンさん…なんだけど。

はにかんだ彼女は可愛かった。
俺のことは眼中になくてスルーしていたけど、その俺の相方であるプリースト様は無意識で目で追ってしまうくらい夢中になっているらしい。
だからごめんね。とまで付け加えられて。あぁそうだよな、この状況なら俺があんたに惚れてるととられてもおかしくないよな。
そっかそっか。変なこと聞いてごめんな。
そう言って上手く笑えたはずの自分を、俺は自分で褒めてやりたい。

「口説いてこいよ。」
「答えになってねえぞ。聞いてきたのか? 脈ありってこと?」
「口説いてこいよ。」
「…なんでそんな機嫌悪いんだよ。」

機嫌悪くもなるわ。
だっておまえあの子とこれから仲良ししてくんだろ。
おまえのことだ、三日もすりゃ飽きて簡単にさよならして、また俺のとこへ狩り行こうぜって誘いにくるんだろ。
でもよくよく思い返してみて、それは今回の場合にはあてはまらない気がした。
だっておまえ、俺は戦闘ブラックスミス。殴りプリーストのおまえとはスキル相性がよくて、お互い楽しいよなって相方やってるわけで。
じゃあ今回口説かんとしてる彼女はどうだ?
むちむちぷりんでナイスバディー。黒髪をきっちり結んで黒ぶち眼鏡で。一見真面目でガードが固そう見えるけど、笑うとぱっと花が咲いた風で。
そしてそして、俺と同じ戦闘ブラックスミス。
そしてそして何より、彼女はおまえの恋愛対象枠に居座れる、女だ。
こらもうあれだろ。恋人兼、相方。
必然的に俺は、お払い箱だ。

「帰る。」
「な、おい待てって。そだ、いっこ言うこと聞くって言ったろ。なんかあるなら今言えよ。これから当分会えないだろ。」
「いらん。」
「はぁ? いらんておまえ…おまえが言い出したんだろ。」

背を向けた俺の肩を、でかくてごつごつした手が掴む。
慣れた感触に、胸が締め付けられる。

「気が変わった。また今度でいい。」
「気が変わったっつーことは、あるにはあるんだろ。今金ねーけど、欲しい物なら言っとけよ。探しておいてやっか…。」

思わず振り返って睨みつけた。
いつもいたずらっぽく細められている釣り目が、真ん丸になって俺を見つめている。
欲しいよ。
おまえが欲しい。
でもそんなの言わせていいのか?

…あぁ、言ってしまえばいいか。
もう、会うこともないだろうから。

「じゃあ。」
「お? うん? 言う気になったか?」

これ以上そばにいたって、辛くなるばっかりだ。
じゃあもうここでいい。ここで終わらせてしまおう。
少しだけ上にある瞳が、すっと細められる。そんな仕草だけで愛しさが募って…。
もう、この顔も。間近で拝めなく…なるんだろうな。


「抱いて。」


鳴り始めていた教会の鐘が、不自然に途切れた。
賑やかだった露店街の喧騒も、ぱたりと止む。
二人の間だけ、二人の息遣いだけが、静寂の中で木霊する。
それにとくとくと耳触りな音が侵入してきて、胸の奥が更にぎゅっと締め付けられている感覚に襲われた。

ノービスのころからおまえは、やたら女にモテていた。
にっかり笑うと覗く犬歯が、野性的な容姿にマッチしていて、反対にアコライトの制服とはミスマッチで。それがまた俺に眩暈を起こさせた。
プリーストに転職した直後なんかは、開いた隙間から見える殴り特有の体に一人欲情して。
それからというもの、オカズは雑誌の向こうの知らない男から、目の前の相方にあっさり変更された。
そんな俺を、おまえは知らないだろう。
おまえの中で俺はただの相方で、そりゃ他の男と比べればそれなりに大事にしてくれていたとは思うけど。
いくら勘がいいとは言え、完全ノーマルなおまえには、俺の気持ちに気がつける瞬間などなかったはずだ。

そして、俺の気持ちに応えてくれる余地だって…ないはずだ。

「ラ…ムネ…?」

放心状態になっているであろうレモンがおかしくて。
肩を揺らして笑いをこらえる。
それでも抑えきれない。笑い声と一緒に、涙まで…あふれてくる。

「ば…か、づら…く、ははっ。」
「な、馬鹿言うな! 笑うな!」

目尻の水を拭う。違うこれは悲しい涙じゃねえんだ。
笑いすぎて涙が出る。そんなことって普通にあるだろ?
…それなんだよ。
だから顔を覗きこむな。
俺の顔を…見るな。

「これに懲りた、ら。言うこと何でも聞く、なんて約束乗るなよ。」

それ女に言ったら確実に困ったことになるぞ。
あいつら頭の回転はええからな。きっと知力初期値な俺らにゃ想像できない要求がぽんぽん飛び出してくるぞ?
せいぜい気をつけて、これからは口説けよ。
もう愚痴なんか聞いてやれる関係じゃ、いられないからな。

「む。俺だっておまえくらいにしか言わねーよ。」
「そっかそっか。じゃあな。」

今度こそ背中を向けて歩きだす。
あともう少しだけ歩いて…、そうしたらパーティーから抜けさせてもらおう。
ごめんな。しばらく耳打ちも拒否させてくれ。
俺の、気持ちの整理がつくまで、そっとしておいてくれ。

それまでにはあのむちむちブラックスミスをさらにメロメロにさせて傍に置いているだろう。
相方になってからこの方、一度もメンバーを入れ替えていないパーティーに、初めて俺とレモン以外の名前が、並ぶことになるんだろう。
いつか、笑って再会できるだろうか。
いつか、三人で…狩りにでかけられるだろうか。

「待てよラムネ!」
「何レモンさん。今引き留めたら宿の俺のベッドの上までご招待だぜ?」

焦った声がなんだか嬉しくて。
軽口のつもりでそこまで言って、顔だけ振り返ってウインクを投げてやる。
こんな風にしか伝えられないから。きっとまだレモンは俺が本気で言ってるなんて思ってない。
でも、それでいいのかもしれない。
気持ち悪がられて、俺にはもう係わるなとでも言われてしまったら。
…俺もう生きていけない…かも。
ぐすん。涙が出ちゃう。だって…。

「おまえ、処女?」
「…今あっさりここで確認していい事柄じゃないですよね!」

駆け足で追い付いたプリースト様は、俺の顔を不機嫌に覗きこんできた。
一瞬聞き間違いかと思ったが、咄嗟に突っ込んだら眉間の皺が増えた。どうやら空耳じゃないらしい。

「何人に掘られた?」
「落ちつこうレモンさん。てかそれセクハラ。」

この歳で、おまえに抱いてくれって言う性癖で。
処女だったら怖い。つか逆に聞くけどおまえ何人抱いたって聞かれて答えられんのか?
つか何この質問。
レモンさん俺に何か恨みある? 冗談で…いや俺にとっては冗談じゃないんだけど。冗談っぽくあんなこと言ったから怒ってんのか?

「何人に…そうやって、強請った?」

手近な塀に背中を押しつけられて、思わず見上げた顔が覆い被さってくる。
柔らかい唇に答えようと開いた口を塞がれて。
かさかさしてねえかな。今日リップ、いつ塗ったかな。なんてぼうっとした頭で考える。
目ぇ閉じてるの、久し振りに見たかも。
最近同じ宿に泊まってなかったから。いや、同じ宿は宿だけど、レモンが帰ってこなかったから。寝顔…見てない。

「んん。レモ…ここ、外…。」
「答えろ。」

口塞がってちゃ反論できませんて!
つか何されてるの俺。
逃がさないようになのか俺の両耳の横に置かれた手。
角度を変えて何度も重ね直し、気を抜いた瞬間に舌が滑り込んできた。
レモンの舌…熱い。
溶け……そう。

「レモ…ン。熱い。」

おまえ全身熱いよ。密着してる体、全部。
嬉しいけど。
一体何が起こったのか、煮えたぎった脳味噌じゃ、悩んでもまともな答えが出そうになかった。
ずっとそれこそ一生こうしていられるなら、俺はそれでもかまわないけど…。

「何人の男相手に、そんな甘えた声出した?」

不機嫌な理由も、キスをしてくる理由も、抱きしめられる理由も、全然わからない。
でも、確かに唯一欲しかったぬくもりが、今、目の前にある。
縋りつく格好だった両腕を持ち上げて、近くにあった首の後ろに回して引き寄せる。
今度は自分からその唇に吸いついて、舌を差し込んで、口内をかきまわした。
ちゅっちゅとシラフで聞いたら赤面しそうな生々しい音が、耳に届いてさらに下半身が熱くなる。
硬くなったそこをレモンの体に押しつけながら、目の前の愛しい男の唇を夢中でしゃぶった。

「おまえ…随分えろい体してんのな…。」

誰の所為だよこのやろう。
一瞬我に返ったが、釣り上がっていた元々の釣り目が、少し垂れて優しい眼差しになったことで、また熱に浮かされる。

「もっかい言えよ。」
「レモ…。」
「名前はいいから。おまえからもっかい誘え。」
「…ベッドぉ…。」
「そうじゃねえ。」

力が入らず使い物にならなくなった膝がかくりと折れる。
慌てた風なレモンが咄嗟に抱きよせ、強い力で支えてくれた。

「レモン…抱い、てぇ。」
「…よくできました。」

なんか新鮮だ。
俺を見つめて、スケベな顔で笑う相方なんて。


寝て起きたらいろいろ思い出すもんだ。
そもそもノーマルだろうとか。男のおねだりって気持ち悪くないのかとか。好きな女に告る前日に男とヤっちゃっていいのかとか。おまえ男と経験あったのかとか。んじゃ俺以外って具体的に誰抱いたんだとか。

…ぶっちゃけ言おう。
幸せすぎて腰が痛い。
頭も痛い。

「なんで殴られたのか聞いてもいいですか。」
「抱かれ慣れた体が腹立つからです。」

別にそう慣れちゃいないと思うがな。
ゲイな上にネコなもんで、しかも御世辞にも可愛いとか綺麗とか言ってもらえるような顔してなくて、相手にはどちらかと言うと不自由してたから。

「じゃあそっくりそのまま返す。抱き慣れた体が腹立ちます。」
「俺はおまえ以外女しか抱いたことない。」

そこは威張るところじゃあない。

「何なの気持ち良くて嬉しくて幸せで最高の日には違いないけど。おまえは何をしたいの。」
「とりあえず美味しかったです。」
「…それはどうも。」

何をストレートに言ってるんだと照れて礼を言えば、起きてからずっと無表情に近かったレモンがぱっと笑顔になった。
いつもの人を小馬鹿にしたような笑い方じゃない。
純粋に嬉しいときに出る…ようはレアい方の可愛い笑顔だ。
まぁどんな顔してたって男前には違いないんですけどね。

軽く溜息を吐くと、裸だったままの俺に法衣姿のレモンが抱きついてきた。
全身が気だるかったが、なんとか抱き返して転倒は防いだ。コケてもベッドの上だけどさ。

「彼女どうするん。」
「ベッドの上で他の女の話はタブーだろ。」
「いやそれ俺の台詞であって、おまえの台詞じゃない。」

これで今から口説きに行くところだなんてぬかしたら、狂ぽがぶ飲みしてアドレナリンラッシュして真っ赤になって斧で切り刻んでやるけどな。
あ、でも同じパーティーだったな。効果があっちにまで行っちまう。抜けとくか。

「そんなことよりもっかいしたい。」
「何レモンさん。昨日ので男に目覚めたの。」

そもそもなんで急に抱く気になったのかさっぱわからん。
ノーマルでもそういう好奇心って湧くものなのか? それともこの人が特殊なの?
自然に下りてきた唇を受け止めて、舌を絡ませあって熱い息を吐く。
潤んだ目許まで色っぺー。
今まで男にはほとんどモテない相方様だったが、意識して表情でも作ってればほいほい寄ってくるようになるかもしんねえな。
…欲目か?

「うん。くせになりそう。もう女いいわ。」
「今更ですけど欲望に忠実ですね。でも男だからって女と一緒だぞ。嫌がるの襲って食ったら犯罪だかんな。」

一応釘刺しておかないと。
女と違ってそう簡単には襲わせてくれないだろうけど、かよわい後衛たんとかプリたんとかぺろっと食っちまいそうだし。
そこまで言って何気なしに伏せていた目線を上げたら、不思議そうな顔に迎えられた。
小首傾げちゃってきめ…くないわ可愛いぞこんちくしょう。

「なあスキルかけてからヤったら、もっとすげえかな。」
「返事しろ返事ー!」

スルーしていいとこじゃないぞ。
わかった同意の上じゃないとダメなんだな。俺学習した。そう言ってくれないと安心できないんですけどー?
あぁそば食いてえわ。蕎麦知ってる? アマツの麺なんだけど美味いの。
え、急にどうしたのかって? 知らん急に食べたくなったん。現実逃避じゃないよ。

「嫌じゃないよな?」
「未知の世界だから、いきなりフル支援は勘弁してください。一つずつ慣れさして。」
「じゃねえって返事しろって言ったのおまえだろ。おまえは嫌じゃないんだよな?」

それって俺とは同意の上かって確認?
今更すぎるけどまぁ一応。

「抱いてって言ったの俺なんだけど。」
「うんうん。そうだよな。でもそんなベッドの上で煽ってくれちゃったらもっかいいただきますするぞ。」
「煽ったつもりないです。あと嬉しいけど腹減ったから飯食…んっ。」

台詞の途中で口を塞ぐな。
抱かれた腰がうずくだろ。
また、抱かれたく…なるだろ…。

「おまえが毎日抱かせてくれりゃ、浮気なんかしねえよ。」
「へえ。一人でハッテン場行く気なの。初心者には刺激強いぜ。」
「妬かせていいのか。ひどくすんぞ。」

妬いてくれるのか。
あーもー顔真っ赤だぜたぶん…どうしよすげえ嬉しい…。

「もっかい誘えよ。」
「…飯…。」
「そうじゃねえ。」

だからそんなスケベな顔で笑うなよ。
全部委ねたくなるだろ。
俺おまえのその俺に黙ってついてこいっぽいところに弱いんだって。
もうずっとごういんぐまいうえいでいてください。黙ってついて行きます兄貴ぃ!

「レモン…キスぅ…。」
「初キスの話してんじゃねえよ。」
「いやそれは俺もしてない。」

おまえ実は雰囲気ぶっ壊すの得意?
実際の初キスは…確かすげえ酒臭かったような…相手誰か忘れたけど。

「おまえは俺のことだけ考えてりゃいいの。抱きつぶすぞ。」
「ほんと本能的な勘はいいよなぁ。」

眉間に寄った皺を伸びあがってしたキスで伸ばす。
そのまま腰に回ってた腕に力がこもって、きつく抱きしめ合う形になる。
法衣が擦れて…刺激が生まれる。

「んっ…俺のこと、好き、なん?」
「おまえは?」
「ベタ惚れ。ちなみにノビの頃から。」
「長いこと愛されてんねー俺。もう放してやる気、ねえから。そのまま惚れてろ。」
「嬉しっ、けど、答え…なってない。」
「ブラックスミスに転職した瞬間から、たぶん好きだった。」
「え、何そのきっかけ。」

思わず懐いてた胸元から顔をあげた。
だってそんなの全然気がつかなかった。俺らもう狂ぽ飲めるレベルになっちまったぞ。おまえは職業柄飲めないけど。

「開いた胸元が誘ってんの自覚ねえ?」
「ブラスミフェチ?」

アドレナリンラッシュが大好きだ。とは聞いたことあるけど。
職業からして好きだったのか? 俺の同業者はあんまり口説いてるの見たことねえけど。

「男はおまえ限定。たまにオカズにさせていただいてオリマシタ。」
「うっそまじ? ノーマルだと思ってたぞ。」
「だからおまえ限定だって。何度これにむしゃぶりつきたくなったことか。」

そう言いつつ突起をつまむな!
たまに見てたのは刺青に興味があるーとか言ってたけど、それだけじゃなかったのか?
こんの不良聖職者めと思ってたけど。それ以上に不良だったのか、おまえ。

「な、もういい?」
「っぁ、もういい…もくそも、臨戦っ態勢ぇ…だろおまえ。」
「今まで寂しい想いさせた分、甘やかしてメロメロにしてやっから。」
「レモン…。」
「だからもう他の男に尻尾ふるなよ。」
「…うん。」

すっげえ遠回りをした気がしなくもないが。
急がば回れっておまえも言ってたしな。

職もスキルも性格も、相性がよくて申し分ない相方だったけど。
これからは、そこに体の相性も加えてちょーだい。

ついでに、恋人って肩書きも。



―終―


あとがき。

ここまでのお付き合い、ありがとうございます。
スケベな顔して相方の刺青を撫でるプリーストを書きたくて生まれた「レモネード」です。
楽しんでいただけましたでしょうか。

実際そのシーンは出てきていませんが、今後続編があれば嫌というほど書くことになりそうです。
日常会話が漫才…みたいな相方関係が大好きです。遠慮なく喧嘩しちゃうのも萌え。
あとはベッドの上で仲直りすりゃいいんです。ようはらぶらぶ。それがすべて。

 
高菱まひる
↑Page Top
inserted by FC2 system