甘熟甘懐。

正常位しい

すっかり日暮れの早くなったプロンテラの街を、肩に手をやりながら歩く。
道端には左右対称と言っても過言ではないくらい綺麗に露店が並べられている。いつもならこの時間、俺だって金稼ぎの真っ最中だ。
客の相手をしていない仲間たちが、時間差で気軽に手を上げるのに律儀に応えてやってから、ふと気付いて慌てて同じところへ手を戻した。
昼間は忙しすぎて気が回らなかったが、ここにはあるはずなのだ。俺を今悩ませている元凶が残していった、今ここにあっては一番マズい、アレが。
俺はこんなものを隠すために、この癖が強めの金髪を伸ばしてるわけじゃないんだがな。

「もー……変な誤解されたらどうしてくれるんだ。」

こんな賑やかな道では、俺の小さな愚痴など誰も聞いてはいまい。
そう油断して、うっかり大きな溜息とともにこぼしていた。

これからいくつかなじみの店を回って補充してー……ちっとサボッてる倉庫整理もしよう。
でもおっちゃんたちはたぶんこんなとこ見ないだろうけど、カプラのねーちゃんには見つけられそうな気がする。
無駄だとはわかっているが、シャツの襟をきゅっと寄せてみた。まあそうね。そう時間もかからずにくぱーっと元の位置まで開くわね。
あっ、いっそのこと全部ボタン留めちまうか? ……いやいやいや、絶対変に思われる。他の人だったら何とでもなるが、あいつにはそんな誤魔化し通用しねえ。
ああうぅ、道行く全員が俺のここを凝視してる錯角すらしてきた。もう全部ほったらかして時間まで引きこもってようかなぁ。つうかそれなら早々に店じまいすることなかったか。

「誤解?」

聞き慣れた声に両目を見開く。それより一寸前に、すぐそばで気配が膨れ上がっていた。
振り返ればそこには、しっとりとした黒い髪に塗れた同じ色の瞳。なぜ暗殺者なんて物騒な職業を選んでしまったのか。いや出会った一次職時代からしてすでに似合っていなかったのだから、まずはその時点で俺が正してやるべきだったのかもしれない。少し見上げた先に穏やかに笑う相方が立っていた。

……相方かって聞かれると、そういうことにしようねって約束したわけでもないんだけど。
俺が勝手に思ってる、そうだったらいいなってだけなんだけど。
周りからはそう思われてるみたいなんだけど。こいつがそれをどう受け止めてくれているかは知らないんだけど。怖くて聞けないんだけど!

「だからこっそり横に立つなって言ってんだろ!」

ドキドキする胸を押さえながら、がーっと怒ってやる。効力はいつもなくて、ごめんごめんって笑みを深められるだけ。
大してイケメンでもないくせに、余裕ぶってるとめちゃくちゃカッコイイ。くっそ心臓が痛え。ドキドキがなかなか収まらない。
こうやって静かに現れて静かに去って行くところだけは、アサシンらしいっちゃらしいんだよなぁ。
でもなんでかそういう時、俺の方が察せられたくないことを考えている瞬間が多くて。ピンポイントで狙ってんじゃねえだろうなってそんな気すらしてくる。
なもんで、こいつにとっては与り知らないことだろうけど、つい文句が出てしまう。さっき言った通り全然効き目ねえから、気にしてねえと思うけど。

「ほんで、何、早いじゃん。もっとかかるのかと思った。店行く?」

同じ歩幅で歩き出したやつに聞く。
確か明日から長期の仕事だ。それの打ち合わせが今日あるって言ってたから、のんびり買出しでもして暇つぶそうと思ってたのに。

いや、いっしょにいられる時間が長くなる分には純粋に嬉しい。本当はもうちょっとかまってほしいし、さらに言うとこうやって飲みに行くだけじゃなくて、旅行とかもしたい。最近狩りにも付き合ってくれなくなった。久しぶりに会うとレベル差が開いたりしてて、ちょっと寂しい。いや俺の努力が足りてないだけなんだけど。こんなんで相方なんて呼べるわけないよな。
普通に飯には誘ってくれるから、甘えてるけど。付き合いだけは無駄に長いくせに、どこまで踏み込んでいいのか、未だにわからない。俺ってどう思われてんだろう……。

「うん。行こう……と、言いたいところだけど。なんかあった?」
「え?」
「怪我? さっき、首押さえてただろ。」

心配そうに瞳が陰って、そっと俺の首元を見る。
止せばいいのに俺は、その視線にあっと声を上げてからそこをかばうように覆い隠してしまった。剣呑な光が点る。

「何。見せて。」
「や、平気。気になって触ってたら赤くなって……。」

我ながら咄嗟に出たにしては上手いのではないか、と思われる言い訳が終わらないうちに、べりっと引き剥がされる。
嘘だろ! 同じすばやさ重視の型で、力も同じ数値だったはずなのに!
数年前の比べっこした時点から、俺だって成長してるはずなのに! やっぱり相当レベルに開きがあるのか? あれからまた強くなったのかおまえ? オーシット!
今まであほみたいに張り合ってた時期もあったのに、こんなに差を見せつけられることはなかった。
手首を掴んだその強さに怯んだ。そんな細い体のどこにそんなパワー秘めてやがるんだ。

「……積極的な彼女だな。」
「彼女じゃねえし。」

うん。別に上手くなかったね。上等な鏡とか持ってなくて、あんまりよく自分で把握できてないんだけど、おそらくこれ結構なくっきり加減の歯型だもんね。キスマークだったら誤魔化せたのかな。それも嫌だけど!
でも何、何なの、だからってそんな目を見開いて驚かなくてもよくない?
俺だって娼館くらい行くよ? おまえの想像してるところとは、性別と立場がたぶん逆だけど。

「感心しないな。」

どの口が!
言い返してやろうと思ったが、睨まれて不機嫌な表情になるから、そこですっと体温が冷える。
やだ。やだやだやだ。
嫌われたくない。
でもだって仕方ないじゃん。男なんだ。溜まるもんは溜まる。
俺だって好きな人とだけしたい。好きな人とだけできるんだったら、わざわざ金払って竿をレンタルすることもないし、初めて入った店で恥ずかしげもなく後ろからしてほしいなんて頼んだりしない。
じっと見つめられるのも、撫で回されるのも舐められるのも、キスされるのも本当は嫌でたまらない。
おまえが応えてくれるなら、バックが好きなんて変わってんね、なんて目を細めてからかわれたりしなかった。
こういうの好きだろって、噛み付かれたりしなかった。
あいつらは全部全部、おまえの代用品。代わりでしかないのに、俺はそれに縋らないと、まともな顔しておまえに会えないくらいまで、こじらせちまってる。

あーつうかなんだ。よく考えたら、なんで俺そんなプレイばっかされんだ?
こっち金払ってんだぞ? 我客ぞ? おん?
いつそんなオプション頼んだよ! 俺の性癖決め付けてんじゃねえぞ! つうかバレバレで悔しいですけど、でも俺をそうやっていじめていいのはこいつだけなんだよ!
だんだん腹立ってきた。

「あいにく彼氏がいないもので。おまえと違って。」

嫌みったらしい声が出た。
さっきより一回り白目が大きくなった。
どこまで開くんだそれ。元から大きい方だけどさ。見つめられたら吸い込まれそうになる印象的な瞳だけどさ。
こんなに表情が揺れ動くの珍しい。だっていっつも穏やかに笑ってっからさ、こいつ。そんなだからちょっと掴みにくいってあちこちで言われんだよ。

「どういう意味。」

気付いてなかったのか。俺より気配とか視線とかその辺敏感なのに。
そんなの詮索されたくないだろうと思ったから、言わなかったんだよ。トモダチ同士なら、黙ってスルーしてやるのが優しさってもんだろうし。普通のトモダチ同士なら、気にするようなことじゃないんだろうし。

「腰抱かれて、宿入って行くの見た。それだけ。」

後姿だけだったから、表情はわからない。いや、表情を確かめる勇気がなかっただけかもしれない。
ぴっとりくっついて、甘えているようにも見えた。
三度見た。馬鹿だ。三度も見たのに、俺はまだおまえが諦められない。
全員違う男だった。だから諦められないのかもしれない。そうだ。一人に決めないおまえが悪いんだ。
だってそれなら、俺でもいいんじゃないか。隣に立つのが、なぜ俺じゃないのか。そう思ってしまってもしょうがねえだろ?
何度も奥歯を噛み締めてやり過ごしてきた。不毛なのに、やめられない。

ダメなんだ。
俺じゃ、満足させてやれないのはわかってるんだ。
わかってるんだけど。

「何で泣いてるんだ……。」

なんでこいつはこんな優しいの?
なんで人の指先ってこんなにあったかいの?
なんでこんなに好きになっちゃったの?
なんで俺のここの奥の方を鷲掴みにして、離してくれねえの?
なんで俺、ネコに生まれてしまったんだろう……。

「なあなあ、バックって異常なの?」

泣いてたと思ったら突然笑い出して、唐突にそんなことを言い出す俺に絶句してる。
置かれたままになっている意外に大きな手を両手で包み込んで、頬をもっと摺り寄せる。
後から後から涙があふれてくる。
前を大きく開いたシャツに染みていく。
なあ、どっか、蛇口ない? これ、絶対ぶっこわれてるから。ちょっと、しっかり栓閉めてみてくれない?
たぶん頭のてっぺんとかにあると思うからさ。
こうやって、ぐっと押さえてさ、左右にちょっとすべらせてくれるだけでいいんだよ。
撫でてくれとかわがまま言わないから。
なあ。そういうのも全部、本当はおまえがいいんだよ。

「昨日ね、言われたんだよ。ああ、これつけた相手になんだけど。」

乱暴に両手を下ろす。
それでもまだ左頬に手が置かれたままだったから、しょうがないから少し避けながら、下ろした手を再度持ち上げてとんとんとうなじを叩いてみせる。
途端に眉間に皺が寄る。
なんでかわかんないけど、それが妙に可愛い。
さらに笑えてきた。

「俺が好き者みたいに言うからイラッとしてさぁ。正常位は好きな子としかしねえの! って怒鳴ってやったんだよ。そしたらさぁ。」

そのすきなこがだいてくれねえから、おれんとこきてんだろ?

ってさ。
あまりにもずぼし。
お口あんぐりよ。そしたらクスクス笑われたよ。クスクスだよ。そんな笑い方するやつ初めて見たよ。
俺も練習したけど不可能だったよ。骨格の差かな?
細い兄ちゃんだったからな。
そうよ。おまえの代わりなのよ。そしたらゴリラみてえな相手だとさすがにバックでもなんか違ってくるだろ? だから細身の方がいいの俺。
おまえもちょっとやってみ? できるかもよ。クスクス。そんな気分じゃないって? そう。残念ね。

「それからずっと考えてて。そうか! 正常位の反対だから、異常位なのか! ってある時バーンって閃いて。」

風呂場でうんうん呻ってたら突然答えが降ってきたんだよな。
ああそうか。もしそういう冗談だったんだとしたら、いくら兼業冒険者相手だったとは言え、メマーナイト食らわせたのは悪かったなって。
でもだってカート離れたとこに置いてたし。ブラックスミスが金準備してる間にそうやってちょっかい出してくるんだから、向こうも悪いと思わない?
普段封印してんのについ出ちゃったんだよ。ケチだからさ俺。おまえみたいに稼いでないから。でもつい出ちゃったんだよ。
だってそんなこと言われたら仕方ねえだろ? デリケートな部分だからさ、俺の。だから俺悪くないんだよ。うん。そう思わない?

「好きなやつがいるのか。」

うん。やっとしゃべったと思ったらそれなわけ?
俺今そんな話してないよね?
ずいっと距離を縮めてくるのはまぁいいけど、いやよくないけど、おまえの匂い好きだから俺ちょっとこの近さはダメだと思うんだけど。
一歩後ずさると一歩近づいてくる。
俺が大笑いしてるにも関わらず、ずっと険しい表情だし、いつものノリの良さどうしたよ。
だいたいすきなこいるのか、ってそんな顔しながらする話でなくない? だってそれ恋バナよ? もっときゃっきゃしながらにしてくれないと。ああもしかしてテントなの? 集団旅行に付き物であるテントがないと気分が上がらない系なの? 石畳固いと思うけど、ここに立てる? 明日起き上がれなくても俺しらねえよ?
両方の目玉をいっぺんに親指で押しつぶされそうになって慌てて目を閉じた。左右に引っ張られて優しく涙を拭われる。
うんそうね。泣きっぱなしだったね、俺。

「うん。」
「告白はしたの。」
「しねえよ。」
「どうして。」
「だっておまえ、ネコじゃん……。」

ずっと両手が頬っぺたを撫でてくれてて、その温かさに、言うつもりのなかったセリフがするんと口からこぼれる。
自然な流れを装って重ねていた俺の手に、文字通り動揺が手に取るように伝わってきて。
せっかく止めてもらったのに、また新たに下瞼にじわっと涙が生成されるのがわかる。
でも、一度見開いていた目が、すぐそこですっと笑みを形作った。
う、え?

「ッ、ああ、やばい。」

急に声が暢気になった。
同時に手が離れていって、背筋を伸ばして辺りを見渡すようにする。
なんだよ。展開についていけないんですけど。と、口を尖らせてからハッと気がついた。
おおおお俺っ、今何をしてた!? 人通りの多いところは抜けていたとは言え、ここは立派に露店街の延長線上だ。
何事かとこちらを見ている人が、そんなに多くなくてよかったけど、いるじゃあねえか……!
えええええちょ、わたくし、結構な泣き顔をさらしたように思うんですが!?
おおおおあえ、わたくし、明日もここで露店開くつもりにしているんですが!?

「うおああああはずかしい!! なに、え、ちょ、今のなし……!」
「はあ、今ナチュラルにキスしそうだった。危なかった。」

羞恥心からじたばたしだす俺を尻目に、胸を撫で下ろす仕草をしている。顔がにやけてるのは、何でなんでしょうね?
つうか、はあ? はあ? はあ、ですよ。はああぁ?
さっきよりはだいぶ緩く、だけど有無を言わせない感じの乱暴さで俺の腕を掴んだと思ったら、ずんずんとどこかへ向かって進んでいく。
咄嗟に踏ん張れなくて、あっさり持っていかれる俺。

「てめえな! この際言わせてもらうけどよ。俺を抱く気もねえのに優しくすんじゃねえ! あと、キスもすんじゃねえ。」
「むちゃくちゃ言うね。」

わかっているからこそ、カートを振り回した。全然手が離れないし。
で、離してくれたと思ったら、ひらりと上手にかわして、今度は手首を掴んで歩き出す。
そういうやりとりを五回繰り返したところで空に向かって大きく吠えた。
なんなんだよ、なんでそんな嬉しそうなんだおまえ。

「いいこだから黙ってついてきて。おしゃべりな分にはいいけど、大人しくついてきて。」
「なんでだよ! は、話ならここでもできるだろ。」

ここまで来たら人もまばらだし、こっちに興味がなくなったのか、視線も感じなくなった。
だから別に舞台を移す必要はないし、別に移しても俺は構わないけど、もしまだ飲みに行くつもりでいるんだったら、ちょっと泣いた後っぽいのがバレるの嫌だから、顔だけ洗っておきたい。
そう思って呼び止めたら、態度を改めるよう文句を言われた直後だと言うのに、柔らかく微笑んで見せて、俺を甘やかす時の表情をして振り返る。いやだからそれが困るんだってば……。なんとかしてよ。俺そういうの弱いのよ……。
ちょっと勢いを削がれて悔しくて、その顔を上目遣いで見る。
足止めはそこでやっと成功して、完全にこちらを向くと同時に掴んでいたところをするりと撫で下げてから左手を持ち上げられた。
ちゅ。
……ん? え?
ちゅ……?

「ここで口説かれたい?」
「くど!?」

びっくりしすぎて何も言えなくなって口をぽかんとさせてた俺に向かって、とんでもないことを口走りやがった。
思わず数センチ跳ね上がってから、二歩後ずさった俺にすかさず三歩近寄ってくる。
ふっと耳に息を吹き込まれて、自分でも信じられないくらい膝が笑った。情けない話だが、その場に崩れ落ちる。
隣にかがんだやつが、信じられない気持ちで見上げる俺を抱き寄せた。

「できればベッドの上がいい。我慢できる自信がない。」
「おま、だっ……、ねこ……。」
「先に言っておくと、それ以上可愛い顔したら、この場でここに手突っ込むから。」
「う、へ!?」

ここ、と説明するためのはずの段階ですでに、シャツに手を突っ込まれていた。
つつつっと背中を撫で上げ、はあとやらしい吐息をこぼす。いやこぼしたの俺じゃねえよ!? 目の前のこいつだからね!
しばらく居座られるかと思ったが、いやにあっさりしかし名残惜しそうに差し込まれた手は引っこ抜かれた。派手に乱れたそこから外気が吹き込む。
体温が遠ざかり、ぶるっと身震いをする。

「あのね。まず俺どっちもできるから。何を見て勘違いしたのかわからないけど。」
「え。……はっ、あ……どっち、も?」

喉が渇いて貼り付いたような声しか出せなくなった。
そんな俺の目を真剣に覗き込んで、力強く頷く。

「そう。男も女も。」
「女も!?」
「うん。男も女も、タチでもネコでも。」

今度は俺が絶句する番だった。
三回見たこいつの雰囲気は、完全にネコだった。細い方だし、かっこいい瞬間もあるが、どちらかと言うと可愛い方。アサシンとは思えない穏やかさと物腰のやわらかさで、完全に俺の中でそっちのイメージができあがっていた。
完全に、その発想が、俺の中になかった。

ずっと、望んできたことだったのに。

「じゃあ抱けるじゃん!!」

震えていた足が急に復活した。
しゃっきり立ち上がって思わずガッツポーズの両手を振り上げる。
あれ、でもちょっと待てよ。拳を握ったまま、しばし考える。見下ろしてさらに考える。
俺の急激な変化についてこれなかったのか、しゃがんだまま不思議そうに見上げていた。
うん。そうね。そうだわ。両肩をがっしり掴む。

「待って待って。」
「う、うん。待つ。」
「ここまで上げたんだ、落とさないでくれるよな?」

今度は俺が真剣な表情を作っていて、目の前のこいつはなめらかに黒髪を揺らしてこてりと首を傾げる。
可愛いけどそれどこじゃない。ずいと顔を近づけた。

「落とす?」
「セフレじゃないよな!? 体目当てじゃないよな!? そこに、愛はあるよな!?」

そのままがくがく揺さぶったので、うえっと変な声が出る。
しばらくされるがままになっていた相方が、自分の力でぴったりと二人分の動きを止めさせた。立ち上がりながら、俺の両手をそっと下ろす。
そこでじろっと睨まれたので肩を揺らして怯んだ。ら、次にふうと鼻から溜息をこぼされた。
えっ、あれっ、なんでよ。

「残念です。」
「残念です?」

予期せぬセリフについ鸚鵡返しになる。
目をぱちくりさせて見つめ合っていたら、乱れていたシャツの隙間から結構な勢いでずぼっと両腕が再度進入してきた。
思わず引いた腰を強引に戻される。
触れ合った股間が、そこだけ妙に、熱い。

「初えっちは青姦です。」

初めて見たサディスティックな笑顔に、不覚にもきゅんとなってる間に、路地裏に引きずりこまれた。
情けない細い叫び声が辺りにこだまする。

暗い暗いプロンテラの闇に溶け込む衣装を纏った、信じられないくらい温かな体。
覆いかぶさってくるそれを、力いっぱいぎゅうと抱きしめると、耳のそばで笑われた。
安心する匂いに包まれながら、首筋を甘く吸い始めた頬に強引に擦り寄る。
口と、口で、キスがしたい。
ちゅうしてと小さくねだったら、面白いくらい体が跳ねて動きが止まった。
思わず噴出すと、唇を尖らせて拗ねた顔が上がってきた。
ああ、本当に可愛い。
ちゅうは? こいつもそう思ってくれたらいいなとできる限り可愛こぶって小首を傾げてみる。そうすると。
早急に口がふさがれ、大変に満足なスタートとなったわけだ。
そう、背中は痛いけど。

あっ、ちゃんと、正常位だったよ!



―終―


あとがき。

ここまでのお付き合い、ありがとうございます。
意味深な更新日の割りにかけらも正月関係ない「正常位しい」です。
楽しんでいただけましたでしょうか。

タイトルはそのまま素直に読んでください。検索する度になぜか予測変換に某スーパーがちらつくので思い切って採用しました。もちろん特に何にも全然関係ないです。
久々にアウトプットすると楽しいですね! 四年半ぶり? わあ信じられない!
また何か書けたら持ってきます。

ちなみに今回、某ブラックスミス受を書かせたらブラックスミスしか右に出るものがいない氏(長い)と盛り上がった元ネタはこちらです。
なので受は彼女の趣味で、攻のアサシンはただの私の趣味でした。

 
高菱まひる
↑Page Top
inserted by FC2 system